生きることなんて、どないもない。Vol.5

眼力さんの守役、服部さんが見た今、昔。暮らすこととは、生きることとは、そして生きることとは。~第五話~

眼力さん 生きることのコツ
京都伏見の清らかな場所 眼力さんの手水は石清水
●第五話●

観光と信仰

日頃、神社に行き慣れた人もそうでない人も年に一度、誰もがこぞってお詣りに出向くのが初詣。正月の参拝者数が例年関西で1、2位といわれる伏見稲荷大社の三が日は、それはそれは大勢の人で賑わっています。

ある年の元日のこと、私は境内に軒を連ねる露店を眺めながら長蛇の列に並んで本殿に向かっていると、一軒の屋台から罵声が聞こえてきました。

「お客さん、買わへんねやったら向こうへ行って!」

まわりの視線を集めたその声の主は、輪投げの店の女性店主でした。推定25歳の店主が怒ったのは、高校生くらいの男の子5人組。どうやらゲームもせずにひやかしで賞品をいじっていたようで、女性店主は辛抱に辛抱を重ねた末キレてしまったようでした。
5人もの体の大きな男の子が小さな露店の前にしつこく居座っていたため他のお客さんが近寄れなくなり、帰ってくれという言い分はごもっともです。男の子たちは彼女の気迫に圧倒されたのでしょう、バツが悪そうにそそくさと立ち去って行ったのでそれ以上大した騒動にはなりませんでした。

混雑した境内を抜け、私はようやく眼力さんに着きました。お詣りを済ませるとさっき見た屋台での光景が気になってそのことを服部さんに話しました。すると服部さんが

「下は“観光”上は“信仰”なんて言いましてな。この伏見稲荷は独特なんですよ。この眼力社のある稲荷山の上は月参りや相当の決心、願掛けをする信仰の人が多いんですが、下の本殿には年に一度だけの観光の方が多いですからね。
でもどちらの人も受け入れるのが私たちの役割なんですよ。この世の中は人生の学びの場所。付き合いやすい人ばかりなら 問題はないのですがいろんな人に出会い、ぶつかって磨かれていくのもまた人生なんですかね」

眼力さんにお詣りで、生き方のきっかけを

さっきのやんちゃな男子高校生たちを“迷惑だなあ”と冷ややかな目で見てしまっていたことに私はハッとしました。日頃生活のなかで他人に迷惑をかける人たちにたくさん出会います。しかし逆に自分も気づかないところで人に迷惑をかけているかも知れません。他人に迷惑をかけてしまっている人と出会って謙虚に日頃の自分の行いを振り返ってみるのもまた人生の学びではないかと話される服部さんの言葉に、今まで分かっているつもりになっていた自分を見つけました。

観光客と信仰者。どちらにも甲乙は無く、誰もがこの地の魅力に誘われて訪れた人たちです。社会で生きていると価値観の違う人に出会います。しかし互いに長所を認め合い、そうでないところは反省し、いろんな人と向かい合って自分を切磋琢磨していかなければならないのが人生なのかもしれません。


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